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第166回芥川賞① 受賞作予想「皆のあらばしり」乗代雄介(『新潮』10月号)

皆のあらばしり 作者:乗代雄介 新潮社 Amazon 新潮 2021年 10月号 新潮社 Amazon 乗代さんの物語だ、という手触り。今作も素直な青少年が大人と触れ合う物語。一種のフェチを感じる。私はこういうお話が好きだ。高校時代に出会いたかった作品。高校の司書の…

第164回芥川賞④ 受賞作予想「小隊」砂川文次(『文學界』2020年9月号)

非常に重厚な作品だった。砂川さんの「小隊」である。文學界 (2020年9月号)文藝春秋Amazon 大枠 外交上の問題でロシアとの間に戦争が起こっている。舞台は北海道。すでに敵軍は上陸してきており自衛隊が陣営を敷いて迎撃に備える。前線部隊の小隊長である安…

第164回芥川賞③ 受賞作予想「母影」尾崎世界観(『新潮』12月号)

芥川賞の候補作もキリキリ読んでいきたい。この半年の不精が祟り、候補作のうち読み終わったのはようやくこれで2作目だ。図書館でもすでに「すばる」と「群像」は貸し出しされていてなかなか戻ってこない。新潮 2020年 12 月号発売日: 2020/11/07メディア: …

第164回直木賞① 受賞作予想『オルタネート』加藤シゲアキ(新潮社)

良質な学園SFを読んだ。オルタネート作者:加藤シゲアキ発売日: 2020/11/19メディア: 単行本加藤シゲアキさんの『オルタネート』である。 「オルタネート」という高校生限定のSNSサービスが欠かせなくなった世界を舞台にした学園小説。3人の基点人物を軸とし…

英語勉強① ”Bluebird“ by Charles Bukowski

最近、ボストンからの留学生に英語を教えてもらっている。学習したことを留めておくために、まとめてみたいと思う。 訳は習った内容をもとに私自身がつけた。 初回はチャールズ・ブコウスキーの「ブルーバード」という詩である。 there's a bluebird in my h…

ダンディズムあれこれ試論

忙しい日々に押し流されて生きている人は、自分の足で立つことから始めよう。他人や社会はあなたのことを気にかけない。自分のことを一番親身に考え、理解しようと努めてくれるのは、他でもない自分自身だけだ。 最近に始まったことではないが、疲れやすくな…

第164回芥川賞② 候補作予想「推し、燃ゆ」宇佐美りん(『文藝』2020秋季号)

宇佐美さんは先日文藝賞受賞作の『かか』で三島賞も受賞された。同期受賞の遠野遥さんも先日の芥川賞を受賞されている。文藝賞、アツい。文藝 2020年秋季号発売日: 2020/07/07メディア: 雑誌今回はそんな宇佐美さんの「推し、燃ゆ」を取り上げる。アイドルに…

苦しみ抜いて強くなり、そしてやさしくなる〜『売野機子のハート・ビート』売野機子(祥伝社)

1冊読み切りで、短編集で、やさしい気持ちに、前向きになれるマンガです。とてもいい。とってもいい。売野機子のハート・ビート (FEEL COMICS swing)作者:売野機子発売日: 2017/02/10メディア: Kindle版収録作は4作。どの話も音楽が根幹に関わっている。「イ…

「在る」あるいは「居る」ということ〜『緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道』山本昌代(河出文庫)

非常に穏やかな、「あっ」と言う間に読めてしまう家族小説である。第8回三島賞受賞作。 緑色の濁ったお茶あるいは幸福の散歩道 (河出文庫―文芸コレクション) 作者:山本 昌代 発売日: 1997/01/01 メディア: 文庫 病気により四肢不随を抱えながらものびやかに…

第164回芥川賞① 候補作予想「ババヤガの夜」王谷晶(『文藝』2020秋季号)

とんでもなく切実なテーマを孕んでいながら、それと気づかずに読まされてしまう。文藝 2020年秋季号発売日: 2020/07/07メディア: 雑誌王谷晶さんの「ババヤガの夜」である。 これから読む人に簡単に言うと、これはとんでもなく読んでいて面白い作品です。じ…

後味爽やか、だが、それだけでは終わらせられない〜『アヒルと鴨のコインロッカー』伊坂幸太郎(創元推理文庫)

実は伊坂さんの作品を読むのは初めてである。アヒルと鴨のコインロッカー (創元推理文庫)作者:伊坂 幸太郎発売日: 2012/01/01メディア: Kindle版本当に全くどんな作家さんかを知らず読んでみたが、『アヒルと鴨のコインロッカー』はとても爽やかなミステリだ…

第163回芥川賞④ 番外編Ⅲ直木賞受賞作予想 『雲を紡ぐ』伊吹有喜(文藝春秋)

伊吹さんの作品は本当に優しい。雲を紡ぐ作者:有喜, 伊吹発売日: 2020/01/23メディア: 単行本主人公の美緒はいじめに遭っている高校生。母は娘に対し意固地に学校へ行けと自分の意見を押し付けるばかりで、ついに美緒は盛岡にある父方の祖父のもとへと家出す…

第163回芥川賞③ 番外編Ⅱ直木賞受賞作予想 『少年と犬』馳星周(文藝春秋)

直木賞受賞作予想2作目。馳さんは5年ぶり7度目の候補入りとなった直木賞界隈イチのベテランだ。 デビュー作『不夜城』が直木賞の候補に挙げられたのは24年前のことであり、同じタイミングで現在選考委員を務める宮部みゆきさんも候補に挙げられ落選している…

第163回芥川賞② 番外編Ⅰ直木賞受賞作予想 澤田瞳子『能楽ものがたり 稚児桜』(淡交社)

※本文章はネタバレを多分に含みます。 今回は直木賞の候補作をしっかり読み込んでみたいと思う。淡交社という茶道関係の書籍を扱う出版社の本が候補入りしたことは世間を驚かせた。私も驚いた。作者の澤田さんは候補歴4回目なので直木賞としてももうベテラン…

性被害に遭うのって性的な価値を持っていると認められるということだから羨ましく感じてしまう瞬間があってそんな自分が許せない〜「改良」遠野遥、「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」大前粟生(『文藝』2019年冬季号)

別にそんな話ではない。遠野遥さんの「改良」である。文藝 2019年冬季号発売日: 2019/10/07メディア: 雑誌男性性をそのままに受け入れるのではなく、男性である自分自体を肯定も否定もせず、だからこそ無自覚に男らしい振る舞いをすることもない「私」。 人…

第33回三島賞①受賞作予想『かか』宇佐美りん(河出書房新社刊)

かか作者:宇佐見りん発売日: 2019/11/14メディア: 単行本文藝 2019年冬季号発売日: 2019/10/07メディア: 雑誌三島賞の受賞作予想、として書き始めたが、本作以外の候補作は読まないかもしれない。河﨑秋子さんの『土に贖う』など気になる作品もあるが、そも…

愛と「べき論」の自縛〜「おぼれる心臓」坂上秋成(『文學界』2019年12月号)〜

優れた小説は人の心を抉る。 文學界 (2019年12月号) 発売日: 2019/11/07 メディア: 雑誌 おかげで眠れなくなった。坂上秋成さんの「おぼれる心臓」である。 前作「私のたしかな娘」を読んだときにかなり心を掴まれていたので遅ればせながらようやく読んだが…

飄々とした人間の生活を見る〜『騙し絵の牙』塩田武士(講談社文庫)〜

脚本を書くときに演じる役者を想定しながら書く手法を当て書きというそうだ。本作は主役の人物を大泉洋さんが演じることを想定して書かれた「当て書き小説」である。 騙し絵の牙 (角川文庫) 作者:塩田 武士 発売日: 2019/11/21 メディア: 文庫 本屋大賞にも…

高尾長良「音に聞く」(『文學界』9月号)、高山羽根子「カム・ラウンド・ギャザー・ピープル」(『すばる』5月号)、李琴峰「五つ数えれば三日月が」(『文學界』6月号)、乗代雄介「最高の任務」(『群像』12月号)

前2回の芥川賞をあまり追えなかったため、過去の候補作を遡って読んでみる。 高尾長良「音に聞く」(『文學界』9月号) 文學界 (2019年9月号) 作者: 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2019/08/07 メディア: 雑誌 第162回芥川賞候補作。 高尾さんの「音に聞…

第163回芥川賞① 候補作予想「黄色い夜」宮内悠介(『すばる』3月号)

巨大な螺旋状の塔内に存在する無数のカジノが、その国の観光資源だった。ルイはある思惑を抱いて、上へと伸び続ける塔を訪れるのだが……。200枚一挙掲載。(『すばる』HPすばる - 集英社より) すばる 2020年 03 月号 [雑誌] 作者: 出版社/メーカー: 集英社 …

第162回芥川賞② 候補作予想「デッドライン」千葉雅也(『新潮』9月号)

学者が小説を書くと周りの教授陣から冷遇されるという話を筒井康隆さんの『文学部唯野教授』で読んだ。文学賞の候補に挙がった唯野教授は身バレを恐れて辞退しようとする。しかし最近では学者が文学賞を受けることはそう珍しいことでもない。松浦寿輝さんは…

第162回芥川賞① 候補作予想「如何様(イカサマ)」高山羽根子(『小説トリッパ―』夏号)

第161回の芥川賞直木賞は1作読んだだけで終わってしまった。やっぱりお祭りには参加したいので今回から頑張って読んでみようと思う。とはいってもまたしばらく読めなさそうだけど。

第161回芥川賞① 候補作決定(直木賞も)

今回は1作を除いて全く読んでいないのだが、とにかく候補作を見た感想だけをまとめておく。 芥川賞 今村夏子「むらさきのスカートの女」(『小説トリッパ―』春号) →候補3回目、第157回「星の子」以来2年ぶり 高山羽根子「カム・ギャザー・ラウンド・ピープ…

思春期をちゃんと書く、書きすぎる ~「ラジオラジオラジオ!」加藤千恵 『ラジオラジオラジオ!』(河出文庫)所収~

文藝系統の青春小説をたまに読みたくなる。ちょうど本屋で平積みしていたので加藤千恵さんの『ラジオラジオラジオ!』を手に取った。 ラジオラジオラジオ! (河出文庫) 作者: 加藤千恵 出版社/メーカー: 河出書房新社 発売日: 2019/05/07 メディア: 文庫 この…

鈍麻した感受性を再起動させる小説 ~ヤモリ、カエル、シジミチョウ 江國香織~

年が明けてから「これは!」と目の覚めるような作品に出会えていなかった。ただ時間が過ぎてゆくなかで自分がすり減ってゆくような不思議な焦燥感に身悶えながら手に取ったのが江國香織さんの『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』だった。 ヤモリ、カエル、シジ…

第160回芥川賞㉚ 受賞作決定(直木賞も)

芥川賞 受賞作 上田岳弘 「ニムロッド」 (金盥予想:大穴) 町屋良平 「1R1分34秒」 (金盥予想:本命) 直木賞 真藤順丈 『宝島』(金盥予想:無印) 予想的中率は50%を下回る。作品ごとの方向性にかなりばらつきがあり選考の場でどのような議論があったの…

第160回芥川賞㉙ 受賞作予想確定版(直木賞も)

お祭りに備えて私は早退してきた。 年に二度。お祭りとしてはしょっちゅうやりすぎの感あり。でも回数減ったら悲しいからこのままで。 それでは最終的な受賞予想を発表しよう。今回は本家の結果をシビアに予想する。しかし隠し切れない私の好みがもれいづる…

第160回芥川賞㉘ 番外編Ⅴ 直木賞受賞作予想『ベルリンは晴れているか』深緑野分(筑摩書房)

ベルリンは晴れているか 作者: 深緑野分 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2018/10/26 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る ミステリーとして評価が高い印象だが、むしろミステリーは付加的な要素だった。骨子にはWWⅡやナチスがドイツに遺した…

第160回芥川賞㉗ 受賞作予想「ニムロッド」上田岳弘(『群像』12月号)

今回はできる限り一度読んだ作品も再読して受賞作予想をしようと思う。 tsunadaraikaneko-538.hatenablog.com 再読したところ「こんなに薄い話だったか」という感想を抱いた。知らない世界を垣間見ることができたというところにこの作品の面白さはあったのだ…

第160回芥川賞㉖ 番外編Ⅳ 直木賞受賞作予想『童の神』今村翔吾(角川春樹事務所)

このタイミングで今年の最高傑作に出会えるとは思わなかった 童の神 作者: 今村翔吾 出版社/メーカー: 角川春樹事務所 発売日: 2018/09/28 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る