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英語勉強① ”Bluebird“ by Charles Bukowski

 最近、ボストンからの留学生に英語を教えてもらっている。学習したことを留めておくために、まとめてみたいと思う。
 訳は習った内容をもとに私自身がつけた。

 初回はチャールズ・ブコウスキーの「ブルーバード」という詩である。

there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I'm too tough for him,
I say, stay in there, I'm not going
to let anyone see
you.


there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I pour whiskey on him and inhale
cigarette smoke
and the whores and the bartenders
and the grocery clerks
never know that
he's
in there.


there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I'm too tough for him,
I say,
stay down, do you want to mess
me up?
you want to screw up the
works?
you want to blow my book sales in
Europe?


there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I'm too clever, I only let him out
at night sometimes
when everybody's asleep.
I say, I know that you're there,
so don't be
sad.
then I put him back,
but he's singing a little
in there, I haven't quite let him
die
and we sleep together like
that
with our
secret pact
and it's nice enough to
make a man
weep, but I don't
weep, do
you?

引用元:https://allpoetry.com/poem/8509539-Bluebird-by-Charles-Bukowski

一節ずつ見ていく。

there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I'm too tough for him,
I say, stay in there, I'm not going
to let anyone see
you.


俺の心に巣食う青い鳥
逃げようったってそうはいかねえ
俺はめちゃくちゃ厳しいんだぞ!
じっとしてろ!俺はお前を誰の目にも触れさせたくないんだ!

 作者の心の中にbluebirdがいるらしい。外へ出たがっているようだが作者は人目に触れさせたくないようだ。
 「there's a bluebird in my heart that wants to get out」の部分は各節の初めで用いられ、詩全体を通してのリズムを作っている。 訳出の際には口触りの良さを意識した。
 3行目の「I'm too tough for him」に関しては「俺はそいつ(ブルーバード)にとっては厳しすぎる」とでも訳すのがより正確だろうが、私が受け取ったニュアンスをそのまま日本語で表した。

there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I pour whiskey on him and inhale
cigarette smoke
and the whores and the bartenders
and the grocery clerks
never know that
he's
in there.


俺の心に巣食う青い鳥
逃げようったってそうはいかねえ
お前みたいな奴にはウイスキーをかけてやる
そんで俺はタバコを吹かすのさ
“させ子“さんだってバーテンダーだってスーパーの店員だって
この街の人間は誰もお前の存在には気付いてないんだ

 作者はどうもbluebirdのことを憎んでいる。街の人々にはbluebirdの存在は知られていない。人目に触れさせたくないという作者の願望は叶えられている。
 そして「whores」と「grocery clerks」に関して。これらは「bartenders」と並んで街の人々を表している。この部分で作者は、作者の近所の人々にもbluebirdは知られていない、ということを示している(※追記:友人から「ウイスキーとタバコの力を借りてブルーバードが人目に触れないようにしているのではないか」との指摘を受けた。非常に納得のできる説であるため付記しておく)。ここで直訳的に「売春婦」「食料雑貨店の店員」と訳すと、少し雰囲気が削がれると私は感じた。「whores」に関しては「娼婦」でもよかったのだが、やはり身の回りの人ということで極力厳しさ(いかめしさ)を消すため、ひらがなの多い「させ子」という言葉を用いた。「grocery」は「スーパー」よりは小規模な店を表しているが、現代日本の我々にとって「食料雑貨店」というよりも「スーパー」といった方が通りはいいだろう。ここで「コンビニ」とするとまた違ったニュアンスが出てくるのでなかなか難しい。当時の時代感を極力損なわないようにしつつ現代日本で伝わりやすいギリギリのラインを攻めた。

there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I'm too tough for him,
I say,
stay down, do you want to mess
me up?
you want to screw up the
works?
you want to blow my book sales in
Europe?


俺の心に巣食う青い鳥
逃げようったってそうはいかねえ
俺みたいな大人に楯突くんじゃねえ
おとなしくしてろ!俺をイライラさせたいのか?
俺をめちゃくちゃにしたいのか?
ヨーロッパでの俺の本の売り上げを台無しにしたいのか?

 まだまだblubirdは外へ出たがる。しかし作者は頭ごなしに押さえ込もうとしている。
 1節目で使われた「but I'm too tough for him」という表現が再出しているので、訳も合わせた方が良いのだが敢えて変えた。次節で同様の「but I'm too ~~」という表現が出てくるが、どうしても「but」の訳出がうまくいかないため別の訳し方になってしまった。そのため、各節の繰り返しは、訳出においては「there's a bluebird ~~ to get out」の部分だけだということにさせてもらった。そのことを示すため、意図的に訳出の表現を変えた。これは作者の創作上の意図を削ぐことになり、訳出にあたる姿勢としては良くないかもしれない。
 さて、この節は比較的平易な表現が多いのだが、一つだけ注意が必要な単語がある。「works」だ。「仕事」という意味の「work」は不可算名詞なので「works」とはならない。最初私は受験英語の知識から、「可算名詞の“work”だから『作品』と訳そう!」と考えたが大きなバツをもらった。先生によるとここでの「works」はある装置の内部機構(例えば建物にとっての配管など)を示す単語だという。ここでは直訳的には「私の内部機構」を示すと解釈した。そのまま訳出すれば日本語としておかしくなるので敢えて字義的な訳は伏せている。ニュアンスは伝えられたが、作者の言葉選びのセンスは少し損ねてしまったと思う。この箇所の訳出に関していい案があればぜひ教えてほしい。

there's a bluebird in my heart that
wants to get out
but I'm too clever, I only let him out
at night sometimes
when everybody's asleep.
I say, I know that you're there,
so don't be
sad.
then I put him back,
but he's singing a little
in there, I haven't quite let him
die
and we sleep together like
that
with our
secret pact
and it's nice enough to
make a man
weep, but I don't
weep, do
you?


俺の心に巣食う青い鳥
逃げようたってそうはいかねえ
ただし俺は切れ者だから
ときどき夜の間だけはお前を遊ばせてやる
みんな寝静まった頃だ
なあに俺はお前がそこにいることは知っているさ
悲しむことはない
やがて俺はお前を連れ戻すがお前は小さな声で歌い続けている
俺はお前を死なせたりはしねえよ
俺とお前はいつだってこんな風に、秘密の契約に基づいて一緒に眠るんだ
こんな話を聞くと感動のあまり泣き出したくなるような奴だっているだろう
でも俺は泣かねえ
そこのお前はどうだ?

 最終節である。作者はbluebirdを夜の間だけこっそり外で遊ばせてやるらしい。街の人々はbluebirdの存在は知らないが、作者だけはbluebirdの存在を確かに知っている。だから悲しむことはないのだ。朝がくればbluebirdをまた心の中に仕舞い込む。でも死なせることはない。作者とbluebirdの関係は「secret pact」に基づいている。一生離れられないようになっているのだろう。夜になると一緒に眠るという。

 さて、どうしてこの話を聞いて感動して泣きそうになるのだろうか。
 お預けにしていたが、この問いに答えるにはまず「bluebird」が何を示しているかを紐解かなければならない。この文章は詩であり、修辞が用いられている。「bluebird」は何かの隠喩である。
 これをどう解釈するのも自由である。私は「自分の心の弱さ」だと解釈した。できるだけ恥ずかしい部分を人目には触れさせたくない。周りの人々は私のことを強い人間だと思っている。しかし私には弱い部分がある。一人の夜にはそっとそんな弱い自分を見つめ直してあげる。決して弱い自分のことを否定するのではなく、そんな部分も含めて自分を受け入れる。どうだい、いい話だろう?泣きたくなったんじゃないか?というわけだ。

俺の心に巣食う青い鳥
逃げようったってそうはいかねえ
俺はめちゃくちゃ厳しいんだぞ!
じっとしてろ!俺はお前を誰の目にも触れさせたくないんだ!


俺の心に巣食う青い鳥
逃げようったってそうはいかねえ
お前みたいな奴にはウイスキーをかけてやる
そんで俺はタバコを吹かすのさ
“させ子“さんだってバーテンダーだってスーパーの店員だって
この街の人間は誰もお前の存在には気付いてないんだ


俺の心に巣食う青い鳥
逃げようったってそうはいかねえ
俺みたいな大人に楯突くんじゃねえ
おとなしくしてろ!俺をイライラさせたいのか?
俺をめちゃくちゃにしたいのか?
ヨーロッパでの俺の本の売り上げを台無しにしたいのか?


俺の心に巣食う青い鳥
逃げようたってそうはいかねえ
ただし俺は切れ者だから
ときどき夜の間だけはお前を遊ばせてやる
みんな寝静まった頃だ
なあに俺はお前がそこにいることは知っているさ
悲しむことはない
やがて俺はお前を連れ戻すがお前は小さな声で歌い続けている
俺はお前を死なせたりはしねえよ
俺とお前はいつだってこんな風に、秘密の契約に基づいて一緒に眠るんだ
こんな話を聞くと感動のあまり泣き出したくなるような奴だっているだろう
でも俺は泣かねえ
そこのお前はどうだ?

 これまで本を読む方だったが、日本語の小説が大半で、詩はほとんど読んだことがなかった。英語の文章を読むなんて初めから諦めていた。しかし英語で詩を読み、それを日本語で表現することは、これまでにない新しい読書体験をもたらしてくれた。0から創作をするのはとても大変だが、「この内容を自分ならこう伝えるな」と考えながら文章を作る作業は、創作と読書のちょうど中間を感じさせとてもエキサイティングだった。英語の勉強だけではなく、日本語の文章術の訓練にもなっている。今後も折を見て継続していきたい。