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第163回芥川賞③ 番外編Ⅱ直木賞受賞作予想 『少年と犬』馳星周(文藝春秋)

直木賞受賞作予想2作目。馳さんは5年ぶり7度目の候補入りとなった直木賞界隈イチのベテランだ。
デビュー作『不夜城』が直木賞の候補に挙げられたのは24年前のことであり、同じタイミングで現在選考委員を務める宮部みゆきさんも候補に挙げられ落選している。

今回の候補作『少年と犬』は連作短編となっている。東日本大震災で飼い主を喪った「多聞」という犬が西を目指し続ける。道中行き合った様々な人間を救い励まし見守る。何が目的で西に向かうのか、それは本作を読んで確かめてほしい。
多聞が行き合う人々は様々に人生行き詰まっている。認知症の母を抱え金に困り犯罪に手を貸してしまった男、スラムに生まれ窃盗で身を助けながら生き続けてきた泥棒、自分勝手でろくに働きもしない夫に頭を悩ませる妻、ギャンブル狂いのヒモ男に苦しめられてきた娼婦、妻と猟犬に先立たれ自分も病を抱えた老い先短い老人。
犬が人間にとってどれだけの救いになるかを、この作品は力強く訴えかけてきた。私は長らく、人間の都合の良いように動物を扱うようなことはしたくないと思ってきた。そのため、人間にとって犬がどれだけ素晴らしいかを訴えるような言説には組みしないようにしてきた。しかし賢く慈悲深い犬はやはり人間にとって救いであるようだ。もうこれは受け入れるしかない。
引用したり内容に言及しなければ記事としての価値はあまりないだろうが、この作品に関しては、作品外であまり言葉を尽くしたいような気持ちにはなれない。流石に7度目、この作品なら直木賞はふさわしいのではないでしょうか。