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第159回芥川賞⑩ 候補作予想「藁の王」谷崎由依(『新潮』6月号)

もしかして2018年上半期は豊作なのではないだろうか。

新潮6月号に掲載された谷崎由依さんの「藁の王」を読みながらそんなことを思った。

新潮 2018年 06 月号

新潮 2018年 06 月号

 

 原稿用紙200枚ですって、みなさん。ご案内の通り芥川賞は長くとも250枚程度であり、200枚という分量はドンピシャなのである。

第155回受賞作の「コンビニ人間」が205枚だと言えばイメージが湧くだろうか。

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小説だからこそ、ってなんだろう

私は小説が好きなのだ。読書が、文字を読むことが好きなのだ。活字離れなんて言葉もそこかしこで聞かれる世の中で、私は文字を読むことに飢えている。

私はなぜ活字離れができないのか、なぜ世間では活字離れが進んでいると言われているのか。この不可思議は折りに触れて私の脳裡を席巻した。

 

基本的に義務教育以来、人々は読書尊重志向を植え付けられているので、面と向かって読書を否定されることは少ないが、陰に陽に軽んじられる趣味ではある。

「そんなに本を読んでどうするの」

「本買う分のお金でもっと身だしなみに気を遣いなよ」

「本もいいけどもっといろいろな世界を知った方がいいぞ」

 

私は別に読書しかしていない人間ではない。そんな人間はいない。生きていくために働いてものを食べて眠る。そんな生活の一部分に読書がしっかと根差しているというだけだ。身だしなみに関しては人に不愉快に思われないようには気を付けているのだが、同じ服をよく着ているのでこんなことを言われてしまった。服装もひとつの趣味だとは思うが押し付けられるのはたまったものではない。基本的に衣服は布であり、倫理に逸脱しない見た目を担保し、暑さ寒さやケガから身を守ることが出来れば足りているのである。衣服を趣味とする人が衣服に執着しない人に物申す態度はいかがであろうか。海外にも行くし交友関係だって無理に広げようとはしていないが世俗を絶つような勢いのものではない。すべては「読書を好むヤツ」という偏見の下に気付かれたステレオタイプなイメージだと思うのだが忠告してくれたYくんはどう言うだろうか。

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第159回芥川賞⑨ 候補作予想「美しい顔」北条裕子(『群像』6月号)

昨年の芥川賞は上半期157回、下半期158回ともに新人賞受賞作が受賞した。

こういう流れは案外無視できないものなので、講談社が刊行する『群像』の新人賞「群像新人文学賞」の受賞作を読んでみた。

 

群像 2018年 06 月号 [雑誌]

群像 2018年 06 月号 [雑誌]

 

 

うーむ。すごく達者。受賞はさておき候補には挙げられてしかるべきだ。

新人賞と侮るなかれ。完成度はかなり高い。

話の筋としては、東日本大震災の直後の東北のある都市で母を喪った女子高生が、彼女を取り巻く環境と彼女の内面の思想の間で揺れ動く、というのがメイン。ざっくり。

 

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無償の愛の重さ 〜かがみの孤城 辻村深月〜

端的に結論を述べる。

 

とても良い作品だった。

 

学校へ通えない子ども7人に与えられたかがみの中のお城。「城にはなんでも願いが叶う鍵」があり、彼らはそれを見つけようとする。

 

導入からしてファンタジーである。ファンタジックな世界設定も嫌にならず読み進められるのは、著者の文章がきっちりツボを押さえられているからだろう。

 

 

 

かがみの孤城

かがみの孤城

 

 

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おそらく、いまのわたしの大部分を形作るものたち 他人にムリにでも押し付けたい作品群

ある友人から「オススメの本のリストを作ってほしい」と言われた。いい機会なのでこれまでに溺れるほどに摂取し続けた作品群の中から選りすぐりの「いやだと言っても無理にでも押し付けたい作品群」リストを作ってみようと思う。本に限らずアニメや漫画も存分に含む。

本記事は随時追記していく予定である。

 

 

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夏が待ち遠しいという感情、青春は頭上を素通りしていった 神聖かまってちゃん(鈴木瑛美子×亀田誠治)”フロントメモリー”

昨日、サイダーガールというバンドの「パレット」という曲がとてもいい、エンリピしていると言った舌の根も乾かぬうちに次の曲である。

神聖かまってちゃんという名前はどこかで聞いたことがあった。しかし実態を全く知らず、地下アイドルかなんかだと思っていたらすごくいいバンドのようだ。まだフロントメモリーの一曲しか知らないのでなんとも言えないが。


鈴木瑛美子×亀田誠治「フロントメモリー」映画「恋雨」主題歌

 

 

フロントメモリー

フロントメモリー

  • provided courtesy of iTunes

 

この動画は先日公開されたばかりで、YouTubeのおすすめに出てきたので視聴してみた。終日YouTubeに入り浸っているがこういうおすすめの類に乗ることは少ない私としては珍しい出来事だった。再生した理由はこの曲が実写映画「恋は雨上がりのように」の主題歌だったからだ。

恋は雨上がりのように」と言えば今年の1月からフジテレビのノイタミナ枠で放送されていたテレビアニメとしてご存知の方もいるかもしれない。私はこの作品を視聴していた。大好きというほどではないが、最後の最後まで楽しみながら視聴した。

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美少女、ジェンダー、価値、偏愛 サイダーガール ”パレット”

 最近セクハラが社会現象になっている気がする。人が嫌だと思うことをするな、という大原則が守られれば根本的な問題の大半は解決するのだが、人は自分が責められる事態に直面すると、非を認めにくい傾向にあるようだ。それだけでは解決しないのは女性側が立場の弱さを逆手にあることないこと吹聴する現象だ。男性も女性も大半は最低限の思いやりを身に着けて心穏やかに暮らそうとしているのに、少数の愚者が秩序を乱す。

このように物騒な世の中になってくると、性別に由来するその人の特徴に言及することに危険が伴ってしまう。


サイダーガール“パレット”Music Video

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