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文学者になりきれず周縁部でおまつりさわぎをするの巻

深海で肥大するウミグモのように、思春期のエゴは現代でこそ無限に肥大する ~てらさふ 朝倉かすみ~

さいきん芥川直木賞関連の作品の読み込みをさぼっている。前回記事を更新してからの2週間は、結構体調を崩していた。その間、『楢山節考』『スタッキング可能』『異人たちとの夏』『海と毒薬』『ららら科學の子』『パンク侍、斬られて候』などを読んでいた。以下に、オススメしたいものだけリンクを貼っておくが、特に紹介はしない。

楢山節考 (新潮文庫)

楢山節考 (新潮文庫)

 
異人たちとの夏 (新潮文庫)

異人たちとの夏 (新潮文庫)

 
海と毒薬 (新潮文庫)

海と毒薬 (新潮文庫)

 
パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

 

 気になったものがあればジャケ買いしてみてほしい。

 

そして永らく更新しないうちに芥川賞候補作に盗用疑惑が発生した。作品そのものに対して私は好意的な印象を持っている。盗用してしまう作者の神経に対しては疑問を投げざるを得ないが、盗用だけであの作品は成り立たないだろう。騒動が落ち着いたら次の作品が発表されることを楽しみにしている。

 なあんてことを考えていたときに読んだのが、朝倉かすみさんの『てらさふ』という作品。時代の寵児になりたい冴えないいなかっぺ少女「弥子」が、ワケアリ家庭で育ち、その寂しさを埋める拠りどころを求めている美少女「ニコ」と手を組み策を弄する青春群像劇である。

てらさふ (文春文庫)

てらさふ (文春文庫)

 

弥子がブレーンとなり指示を出し、ニコが表舞台で輝く。「ゴーストライター」として弥子はまず文部科学大臣奨励賞に輝く読書感想文を書き上げる。綿密な研究に基づきツボを押さえた感想文を仕上げ狙い通り賞を得てしまう。続いて弥子は芥川賞を狙う。田舎臭い考えではあるが賞の権威が値打ちや評価を確立する上で有効だろうと考えてのことである。そして弥子はついに芥川賞に輝く作品を仕上げてしまう。(だいじょうぶ、これはネタバレとして重要ではありません)

モサい文学の世界にとつぜん現れた若い才能というだけでたいしたもんだが、表舞台に立つニコの見栄えが騒ぎをさらに大きくする。まさに2人は時代の寵児となるのだが...

 

と珍しく丁寧にあらすじを書いてみた。この作品の見どころは現代の情報産業の進歩が生み出したシステムが、田舎の女子高生のエゴを急速に肥大させてしまうという点にある。

ただ思春期の友情とか、思春期らしくなにかひとつの目標を目指して取り組むさまを描くのなら、評価の確定した歴史的な名作を読みたいと思う。

そんなしょうもないもんではなくこの作品は、現代における思春期の在り方を提示している。情報価値のある見栄えと若さとそれらしい才能に、現代社会は大きな価値を認める。2人に対して金も名誉も惜しげもなく与える。富を得てしまった時点で後に2人がうまくいかなくなるだろうことは想像に難くない。しかし2人のすれ違いはそんな単純ではない。

以下、ネタバレになる。

 

 

 

芥川賞を受けた弥子の作品は、パクリなのである。細かい文章表現に賢しらにちょっと手を加えただけで、物語の骨子からすべて丸パクリである。そんなんで芥川賞受けちまったもんだから最初はいい気になっていたニコも手を引きたくなる。その冷静な判断をできるようになったのはイケメン糸田くんの力だ。糸田くんは弥子がパクった作品の作者の孫で、弥子がパクリがばれないかを予め調べるため作者に接近したときに知り合う。作者はもうボケてしまっており前後不覚になっているのでバレる恐れはないと判断し、弥子は作品を新人賞に応募する。おそらく文學界新人賞をモチーフにした新人賞に。

糸田くんははじめ弥子といい感じになる。これは弥子の一方的な思い込みなのだが。そして気を良くした弥子は糸田くんをニコに紹介する。しかし美少女とイケメンを引き合わせればいつの世もくっつく。磁石のS極とN極のようなものだ。横暴な弥子の振る舞いに辟易していたニコはついに2人の関係を糸田くんにばらしてしまうのだ。ニコは糸田くんの力も借り、弥子と絶交し、作家を引退する。そもそも何も書いていないので引退もくそもないのであるが。

弥子は自棄を起こし、インターネットの掲示板に匿名で、芥川賞受賞作はゴーストライターの手によるものだと書き込む。その書き込みを偶然発見した糸田くんからPCを奪ったニコと弥子の間で繰り広げられる、壮絶な匿名の殴り合いはクライマックスにふさわしい。

こんな悲惨な物語であるが、ニコも弥子もさっぱりしたもので、ニコは本当に心落ち着ける糸田くんという場所を見つけ満足しているし、弥子は改めて時代の寵児となるために、ただその目的だけのために、手段を模索し続ける。2人の考え方はこの物語を悲劇の一歩手前で救っている。

 

ゲスいこと言うけど、今回盗用で非難を受けている作者も新人賞受賞作が芥川賞候補に挙がっており見てくれが良い。ここまで来たら実は後ろに弥子のようなゴーストライターがいたんじゃないかと勘繰りたくもなる。こんなに時代とリンクした作品を書いていたなんて朝倉さんはエスパーかなんかなのかと驚く。弥子ニコの一歩手前で転んでしまった北条さんに対してはおつかれさまと言うしかない。というか弥子ニコは思春期をこじらせた結果なのでかわいいもんだが、北条さんはもう30を超えているので、正直ひくな。

 

参考文献はきっちり書こうというリテラシーは北条さんの事件を機に私の中で高まった。表題のウミグモが深海で肥大するという知識は早川いくを氏の『へんないきもの』(バジリコ)を参考にした。ので以下に示しておきます。引用はしていませんので悪しからず。

 

参考文献

早川いくを(2004)『へんないきもの』バジリコ。