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第160回芥川賞㉒ 候補作決定(直木賞も)

きたきたきたきたきた波乱やないかい

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とりあえず私の予想と照らし合わせてみる

 

芥川賞候補作

実際の候補作

上田岳弘「ニムロッド」(『群像』12月号)→候補入り3回目(第154回以来)

鴻池留衣「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」(『新潮』9月号)→初候補

・砂川文次「戦場のレビヤタン」(『文學界』12月号)→初候補

高山羽根子「居た場所」(『文藝』冬季号)→初候補

古市憲寿「平成くん、さようなら」(『文學界』9月号)→初候補

町屋良平「1R1分34秒」(『新潮』11月号)→候補入り2回目(連続2期候補入り)

 

金盥予想:的中率2/6(33.3%)

古市憲寿「平成くん、さようなら」(『文學界』9月号)→〇

石田千「鳥居」(『文學界』10月号)→×

坂上秋成「私のたしかな娘」(『文學界』10月号)→×

三国美千子「いかれころ」(『新潮』11月号)→×

町屋良平「1R1分34秒」(『新潮』11月号)→〇

岸政彦「図書室」(『新潮』12月号)→×

 

直木賞候補作

実際の候補作

・今村翔吾『童の神』(角川春樹事務所)→初候補

垣根涼介『信長の原理』(KADOKAWA)→候補入り2回目(第156回以来)

真藤順丈『宝島』(講談社)→初候補

森見登美彦『熱帯』(文藝春秋)→候補入り3回目(第156回以来)

深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)→候補入り2回目(第154回以来)

 

金盥予想:的中率2/6(33.3%)

彩瀬まる『不在』(角川書店)→×

須賀しのぶ『夏空白花』(ポプラ社)→×

増山実『波の上のキネマ』(集英社)→×

森見登美彦『熱帯』(文藝春秋)→〇

町田その子『ぎょらん』(新潮社)→×

・深緑野分『ベルリンは晴れているか』(筑摩書房)→〇

 感想

 今回の候補作は私の好みとは大きくずれている。選ぶのは私ではない誰かなのだから当然だ。しかしここまで大きく外れるとは思っていなかった。

 芥川賞はいつも通り五大文芸誌からの候補作選定だが、6作中2作はまだ読んですらいない。砂川さんの「戦場のレビヤタン」と高山さんの「居た場所」である。

 砂川さんの方は本当にノーマークだった。砂川さんの作品が掲載された号は「直木賞のすべて」という変態神サイトを運営されている川口さんの特集だけ読んでほったらかしていた(「直木賞のすべて」では候補作の詳細と銘打って各作品の作者の候補歴や候補作への所感などがかなりの分量で取り上げられている、候補作は日本文学振興会の公式HPで午前5時に発表されるのに5時30分ころにはすでにアップされているのでバケモノとしか思えない、私も5時からずっと記事を書いているのに更新できるのは6時を過ぎてからだろう)。文學界のHPにもぜんぜん情報が載っていないのでとりあえず急いで読んでみなければ。

 『文藝』冬季号は文藝賞受賞作掲載号だったこともあり手に取ってじっくり読んでいたのだが、高山さんの「居た場所」を飛ばして後ろに載っていた牧田真有子さんの「土鍋川鮎子の愛と推理」という作品を読んで面白いけど芥川賞ではないな、と思っておしまいにしていた。これもさっそく読んでみよう。

 上田さんの「ニムロッド」は以前の記事でも触れた通り、芥川賞よりも三島賞っぽい性格の作家さんだと感じた。芥川賞はどちらかと言えば保守寄りの古っぽい作品が受賞する傾向にあるが、三島賞はかなり攻めたアバンギャルドな作品も多い。上田さんのようなSF寄り純文学とも親和性が高い。果たして上田さんはすでに3年前に三島賞を取っている。芥川賞としてきちんと評価を受けられるだろうか。私は好きな作品だった。あと上田さんって声優の関智一さんに似ていると思うのだがみなさんどう思われるだろうか。

 鴻池さんの作品の候補作入りを知って「ええ...」と思ってしまったのは私だけだろうか。架空のwikipedia の記述という試みはただの実験小説の閾を出ているとは感じられず、創作上の工夫が作品の完成度にいい影響をもたらしているとは到底感じられなかったのだが。再読再読。

 古市さんは最近朝の情報番組でデヴィ婦人と対決したりしてなかなか面白い人だと思う。というか今日の「とくダネ!」で絶対に取り上げられるよね。普段は芥川賞の候補作品発表なんてマスメディアではひっそりとしか取りあげられないけど今回は結構取り上げられそうでうれしい限りである。

 町屋さんは本当に力作で取り上げられたと思う。できれば野間新や三島賞を先に取ってほしかったがまあこれで芥川賞を取ってしまうでしょうね。古市さんの作品と町屋さんの作品は多くの人に読まれるべき作品だと思う。

 

 続いて直木賞。最後の最後に滑り込みで候補作予想に潜り込ませた深緑さんが堂々候補入り。まだ半分(Ⅱを読み終わったところ)なので作品全体に対して言えることはあまりないのだが、前半部だけでも戦中戦後のドイツの空気が色濃く漂っておりただ事ではない迫力を感じた。第142回芥川賞を受賞した赤染晶子さんの「乙女の密告」を読んで以来『アンネの日記』や『アドルフに告ぐ』を読み漁り予備知識を蓄えていたことも関係あるかもしれないが、そうした前情報がなくともやはりリアリティにあふれた作品ではないかと思う。

 今村さんの『童の神』は前述の川上さんの「直木賞のすべて」内の大衆選考会という一般読者による受賞作予想ページでも高い評価を得ていた作品である。同ページでは一応予想される候補作が列挙されているのだが、過去の傾向を踏まえ大手出版社のものしかリストに載らない。『童の神』はリストに載っていなかったにもかかわらず何人かが熱烈に推薦していたので印象に残っていた。まさか本当に候補入りするとは。早く買わなきゃ。

 垣根さんは以前も『室町無頼』という作品で候補入りしていた時代作家さんのようだ。まだ1作品も呼んだことがないのでせっかくなので読みたい。しかし今回は芥川賞の予想を本気でするので後回しにしてしまうだろう。

 真藤さんの作品は本当の本当に全くのノーマークだった。恥ずかしながら名前もはじめて聞いたし作品を本屋で見かけたこともない。とても驚いた。ただ川口さんによると「渾身の力作長篇、という勝負になった今回の直木賞のなかでも、この迫力と親しみやすさ、まるで見劣りするところがありません。」とのことなので気になる存在である。

 そしてみんな大好き森見さんである。今回の候補作の中で唯一すでに読み終わっている作品である。詳しく触れだすときりがないので以前の記事を参照してほしいが、たとえファンタジーだろうがなんだろうがいい加減森見さんに直木賞を送らなくてはいけないだろうと思う。そしてこの作品はしっかり直木賞を受け止められる大きな器を備えた作品である。私の(現時点での)今回の大本命。

 

 さてさてこれから約1か月間の芥川賞直木賞パーティー、候補作を読んでお気に入りを見つけ、受賞作を予想しつつ楽しんでいただければ幸いである。