期待に胸を膨らませて裏切られないことはあまりない。私は町屋さんの作品に期待しながらも悪い意味で裏切られることを予想していたので、もしかしたら心の底からは期待していなかったのかもしれない。それでも「1R1分34秒」という作品は、私の期待に応えてくれた、と大声で触れ回りたい。
第160回芥川賞⑫ 候補作予想「はんぷくするもの」日上秀之、「いつか深い穴に落ちるまで」山野辺太郎(『文藝』冬号)
第160回芥川賞⑪ 候補作予想「いかれころ」三国美千子(『新潮』11月号)
今月号は各紙新人賞の結果発表でにぎわっている。北条氏の作品を取りあげた際にも書いたが、昨年度の芥川賞157回158回は通算3作の受賞作が出て、全て文芸誌主催の公募型新人賞の受賞作であったという豊作(あるいは不作)であったのだ。流れと言うのは案外無視できない力を持っており、実際北条氏の群像新人賞受賞作も一定の力量を評価する声はあった。それ以外の要素で芥川賞には圧倒的にふさわしくないと判断されてしまったようだが。
そんなわけで今月号の文芸誌各紙は芥川賞も視野に入れた、というかビンビンに意識したうえで新人賞を発表しているのではなかろうか。特に今回取り上げる『新潮』は狙っているに違いない。180枚。繰り返すまでもない。芥川賞ドンピシャである。
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第160回芥川賞⑩ 候補作予想「鳥居」石田千、「私のたしかな娘」坂上秋成(『文學界』10月号)
第160回芥川賞⑨ 候補作予想「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」鴻池留衣(『新潮』9月号)
第160回芥川賞⑦ 候補作予想「春、死なん」紗倉まな(『群像』10月号)
七十歳の身体から、傍目には既に抜け落ちたと思われている性欲。それが枯渇どころか、実際には持て余すようにしている――。高齢者の性をえがく鮮烈な文芸誌デビュー作。紗倉まなの創作「春、死なん」(120枚)(群像10月号紹介ページより)
HPの紹介文を見て、はーん、そういう作品だったのかー、と驚いた。私は老人の青春小説として愉しく読んだ。モチーフとして性の扱いは取り上げられていたが、それはこの作品を構成する要素の一つに過ぎないというのが私の感想だ。
文芸誌界隈では似たような作品が集まる傾向にある。日常系、暴力肉体系、思弁垂れ流し系、などなど。この作品は日常系不穏亜系といったところか。めちゃくちゃ雑にくくるなら今村夏子さんの作品に似たぞわぞわ感があった。読み進めることが怖いような感じ。
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