お次は『すばる』。『週刊少年ジャンプ』で有名だが、文芸雑誌も発行している。それが『すばる』である。
今回は小山内恵美子さんの「あなたの声わたしの声」を取り上げる。小山内さんは九州芸術祭文学賞の出身だ。ほかには賞で取り上げられたことはなく、無名の作家さんと読んで差し支えないだろう。
この作品は「声が聞こえなくなった自分史編集者」という主人公の設定にかなり強い特色がある。小川洋子さんの『博士の愛した数式』と似たものを感じた。
設定はかなりユニークだが、そこで描かれているものは静かで穏やかなドラマだ。ページを繰る手は止まらなかったが、物語自体は非常に薄味あっさりだった。
静かに、人間というものと向かい合う主人公は、声が聞こえなくなったことをきっかけに自分とも向き合うことになる。内なる声の存在に気付いたとき、物語は新たなフェーズに入る。
ただ、こういう設定にこだわりのある作品は芥川賞ではあまり好まれない傾向にある気がする。地味だが滋味深い良い小説だと思うが、候補入りする可能性も受賞する可能性も低いかもしれない。もう少し刺激を強めれば本屋大賞の方で議論されたかもしれない。
そして樺山三英さんの「団地妻B」。樺山さんはSF畑で活躍する作家さんらしい。SF的純文学というものを円城塔さんの「道化師の蝶」以来毛嫌いする私だったが、この作品はまだ読むことができた。
マダムBはわたしだ。
最後の最後までマダムBの正体が雲をつかむようでわからなかった。徹夜明けの頭では難解すぎて理解することができなかった。美しいマダムB、そしてその死体。これはかつて栄華を極めた団地、集合住宅とその凋落と重なって描かれる。
うーむ。読むべきところがあったのかもしれない、と少し思う。しかし読み返したいとは思わない。あまりにも暇だったら、もしくは芥川賞の候補に挙げられたら読み返してみようかな。私の予想としては候補入りはしない。