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思春期をちゃんと書く、書きすぎる ~「ラジオラジオラジオ!」加藤千恵 『ラジオラジオラジオ!』(河出文庫)所収~

 文藝系統の青春小説をたまに読みたくなる。ちょうど本屋で平積みしていたので加藤千恵さんの『ラジオラジオラジオ!』を手に取った。

 

ラジオラジオラジオ! (河出文庫)

ラジオラジオラジオ! (河出文庫)

 

  舞台は2001年のとある地方都市。人とは違う自分のことを誰かが見つけてくれる、そして私はキラキラした世界で活躍するのだ、と漠然と東京に夢を見る女子高生華菜(カナ)。彼女は級友智香(トモ)と地方FMでラジオパーソナリティを務めている。地方を盛り上げるためのボランティアのようなもので、無給である。カナは二人のラジオ番組「ラジオラジオラジオ!」がテレビ関係者の目に留まることを夢見ている。オーディションに申し込むときもカナ主導で半ば強引にトモを引きずり込んだ。はじめは前向きだったトモの心は次第に離れてゆき、カナは焦りを感じる。結局トモは受験を口実に半年ほどで番組を降板してしまう。一人で番組を続けることになったカナはアヤちゃんという友人の悲恋を番組内でネタとして扱ってしまい激しく罵られる。

 序盤、カナが小学校で起きた殺人事件の話題の最中に、

「なんかさ、わたしたちって水槽の中にいる気がしない?」

(P23)

 と言うシーンがある。ここを読んで私はカナの甘さにひっかかった。おそらく家庭に恵まれ何不自由なく生活してきたであろうことは想像に難くない。

 作中でカナは、ただ自分は人と違う存在であるという妄想に固執して現実を見ない。しかしアヤちゃんとの衝突によって現実と向き合うことになる。

「もしもし、今放送聴いたんだけど、なんでわざわざ名前出したりするの?」

 大きな声ではないけど、こちらの声にかぶるような勢いがある。

「え、ごめん」

 とっさに謝ると、信じらんない、とつぶやかれた。響きの冷たさに、一瞬で背筋が固まった。

(中略)

「華菜って結構、身勝手っていうか、自分しかみえてないところあるよね。もうちょっと考えて」

 ずいぶんきつい言い方だ。怒りが携帯電話越しに伝わってくるような気がした。

(中略)

「ホームページの告知もしてたけど、そっちにも書いたの?」

「ううん、書いてないよ」

 慌てて否定した。実際に書いてない。

「じゃあいいけど、ホームページの告知も正直寒いよ。おいしそうな名前とか、意味わかんない。前に聴いたときも思ってたけど。あと白馬の王子様とか言ってたのも、なにそれって感じする」

 引っかかり、刺さった。また、ごめん、と言わなければと思ったのに、それより先に、さらなる発言が右耳に飛び込んできた。

「番組自体、自分ではおもしろいとか思ってるのかもしれないけど、超つまんないよ」

(P118-120)

 結局カナはこの時点では現実を受け止めきれない。打ちのめされるカナを矢継ぎ早に現実が襲う。アヤちゃんの失恋をネタにしたのと同じ回で放送中のドラマに深く言及したことに関して、ディレクター海老沢さんから指摘される。普段ラジオは聴かないと言ったカナに対して海老沢さんは言う。

「僕はね、テレビとラジオはまるで違うものだと思うんだよ」

「はい」

 今度は同意して頷く。確かにまるで違うものだ。またお茶を飲んだ。

「ラジオはテレビの代用品じゃないし、劣っているわけでもない」

 今度は、はい、とは言えなかった。その二つは、金メダルと銀メダルみたいに違っていると思う。そして金と銀なら、どっちがいいか明らかだ。

(P130)

 この時点で少しだけカナは反省する。ラジオをテレビの下位互換のように考えていた自分と違い、海老沢さんはラジオに熱い想いを持っているのかもしれないと想像する。

 その後、カナはアヤちゃんのことに関して、メールを送ってくれてから親交のあったリスナーのなつねえ(27歳、小太りでおしゃれに無頓着、サブカルチャー的知識豊富)に相談する。否定してもらいたくて。

 しかしそこで思いがけない告白を受ける。お姉さんが結婚するというのだ。ショックを受けるカナ。心のどこかでお姉さんのことを軽んじていたのだろう。

「実はね、結婚するんだよね」

「え、なつねえさんが?」

 笑いながら、うん、と言われた瞬間に、当たり前のことを疑問として口にしてしまったと気づいた。

 それでもやっぱり、目の前にいる人の姿と、結婚という単語は結びつかない。なつねえさんは結婚しないの、と前にお母さんに訊ねられたときも、しないんじゃないのかな、と答えていた。確かめもせずに。

(中略)

「驚かせちゃってごめんね。華菜ちゃんってあんまり恋愛の話とかは好きじゃないのかなって感じがしてたから、なかなか話すタイミングがつかめなくって。でも彼に華菜ちゃんのことは話してて、ラジオ聴いたこともあるの。高校生なのにすごいねーって感心してたよ」

「ありがとうございます」

 お礼を言ったけど、ほめてもらった嬉しさより、なつねえさんがわたしのことをずいぶんわかっていることへの驚きが大きかった。わたしはなつねえさんのことを全然知らない。

 教えてもらうチャンスなら、いくらだってあったのに。

(P135-137)

 カナは自分の心地いい空間(コンフォートゾーン)から踏み出さない。話しやすい話題、興味のある分野の出来事しか感知しない。この出来事でようやくカナは反省する。

 アヤちゃんの言葉が頭の中でよみがえる。言われてからずっと、事あるごとに繰り返し再生されてきた、つまんないという単語ではない。その前に発された言葉だ。

 身勝手。自分しか見えてない。

(P137)

 このあとカナがどう振る舞うかはここには書かない。あらかた紹介してしまったが、ここから先は作品を読んで感じてもらいたいところだ。

 心情描写や人物描写がとてもていねいであり、物語自体もわかりやすい。高校生が読書感想文などで取り上げるのに最適な題材だと思う。私の文章は拙いのでパクっても碌な評価はもらえないだろう。悪しからず。