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第160回芥川賞㉔ 受賞作予想「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」鴻池留衣(『新潮』9月号)

なにがなんだかわからなかった

新潮 2018年 09 月号

新潮 2018年 09 月号

 

以前読んだときは適当に読み飛ばしてしまってなにがなんだかわからなかった

tsunadaraikaneko-538.hatenablog.com

今度はじっくり時間をかけて、されどなにがなんだかわからなかった

  しばらくぶりに、今度はゆっくりわからないところで立ち止まりながら読んでみた。なんど眠ってしまったかわからない。寝すぎて頭が痛い。筋立てはドライブ感に溢れており、にもかかわらずこの眠気はいったいどういうことか。

 ネットで漁った書評によると、それがこの作品の狙いだったようである。わからないように作られた作品に対してわからないと文句を言うのは存在否定をしているのに過ぎなかったのだ。

 「ダンチュラ・デオ」(以下DD)という架空のバンドのオリジナルを探し求めて、コピーとしてDDの楽曲を世に発表するバンドの物語。かと思いきやそうでもない。DDのオリジナルを知ると言う人物が現れる、コピーDDのメンバーが謎の集団によって危険にさらされる、嘘だけで作られたはずのDDなのにオリジナル映像が出てくる。はたしてDDは存在していたのか。

 本文はすべてwikipediaを引用したベストアルバムのライナーノーツという設定である。このwikipediaはメンバーによる執筆とそれを邪魔する集団によって邪魔されている。どこまでが元のwikiでどこからが編集合戦の結果なのか。気持ち悪くなるほどわからない。例えば、

たった一人の一言で、ダンチュラ・デオなるバンドが俄かにリアリティを獲得するとは考えていなかった。僕とてそれは承知していた。(P12) 

 という記述など、端的にどっちやねん、としかツッコめない。

 ネットで巨大化する情報から本当とか嘘とかより分けられないという無力感は確かに残った。それがこの作者の創作動機なのかもしれない。

 ただ、So what? だから何? と聞きたくなってしまうのが人情。私にはその先に訴えかけてくるものは感じられなかった。だからこの作品を推すことはできない。

 そういえばP54で「マキシマム ザ ホルモン」のことを「マキホル」と略していて、自覚的にしたのかわからないが意図は不明だったのでやけに好戦的だな、と思った。