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第160回芥川賞⑲ 番外編Ⅴ 直木賞候補作予想『熱帯』森見登美彦(文藝春秋)

 今年なんとなく『夜は短し歩けよ乙女』を再読して、やっぱわけわかんないな、面白いなと思っていた森見さん。文章が好きで、意識していないのに「森見さんを意識して文章を書いているんじゃないか」と言われるくらいに染まっていたこともある。ただ読んだ作品数はぜんぜん多くない。今回の『熱帯』でまだ3作目なのだ。

熱帯

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 ↓試し読み版なんてものもある

熱帯 試し読み版 (文春e-book)

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  前半はオンライン文芸誌に連載され、後半は単行本に書き下ろしたということだ。確かに前半に比べて後半は森見さんらしい、途方もないところまで連れて行かれるという感覚が強くなった。

 佐山尚一氏作、誰も読み終えたことがないという『熱帯』を追い求めるドタバタ劇のような前半部。『夜は短し』や『四畳半』で慣れ親しんだ「オモチロイ」愉快な人々がかわるがわる現れて楽しい。しかし後半部、第4章で構造に大きな変化が現れる。まだ読んでいない人もいるだろうが、読めばすぐにわかる。だからネタバレをしてしまう。後半部読み始めで私は「これはまずいことになったぞ」と思わされた。これは絶対に佐山氏の『熱帯』の中に取り込まれたぞ、と。

 物語全体がメビウスの輪のようにぐるぐると回り続けていた。私もまた『熱帯』を読み終えることはできなかった。

 読み始めてすぐに作中作と同じ題名なのはいかがなものかと思っていたが、読み終えれば題名も含めての仕掛けなのだよと一杯食わされたような格好だ。きっとこの世界のどこかには佐山氏の『熱帯』が存在して、その中には森見氏の『熱帯』への言及があるのだろうな。

 直木賞的にも考えてみる。お膝元文藝春秋からこの分量で単行本を出すということは編集者も直木賞は意識しているだろう。内容も今までの森見さんの作品に比べると、ファンタジー味はむしろ強いくらいだが、構造のダイナミズムなども含めて読み応えが凄かったので候補入りすることを疑う余地はない。たださすがに受賞は難しいかもしれない。頭カチコチのおっさん衆を黙らせることはできるだろうか。