第160回芥川賞⑱ 番外編Ⅳ 直木賞候補作予想『ぼくは朝日』朝倉かすみ(潮出版社)
朝倉かすみさんの作品を読むのは二度目である。前回読んだのは『てらさふ』でという作品であった。
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『てらさふ』は芥川賞を狙う女子高生が主人公であるという自己言及的な側面を持っており、直木賞には上がらなかったが、本当に素晴らしい作品だった。
『てらさふ』が直木賞に入らないということを踏まえると、今作もなかなか厳しいと言わざるを得ない。まず出版社の規模からして難しいだろう。潮出版から候補入りした例を探したところ、35年前の第89回に森瑤子さんが『風物語』で候補になっている。
たった一例しかない前例を更新するほど絶対に候補に推したい作品かと聞かれると、なかなか難しいものがある。
昭和の家庭の風景をていねいに掬い上げたこの作品は、派手なところはないが読んでいてしみじみと懐かしく温かい気持ちにはなれるだろう。直木賞でなければぜんぜん問題ない作品である。
ただわざわざ直木賞で取り上げるべきかと考えると微妙なのだ。しかし直木賞の「推されてしかるべき作家の推されてしかるべき作品を次々と見逃し、結果としてなぜこれが、というような微妙な作品で候補にしてしまう」という特性を鑑みると今作が候補入りする可能性ももしかするとなくはないのかもしれない。
朝倉さんはまだまだ書き続けられると思うので、もっと心を抉ってくるようなえげつない作品で選考委員を平伏せさせてほしいと思う。