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第160回芥川賞⑥ 候補作予想「波に幾月」藤代泉(『文藝』秋号)

古市さんの作品がアタリだったのに対し、今度はバランスを取るように非常に退屈な作品に出会った。あまりにも退屈過ぎてわずか原稿用紙92枚の短編なのに何度も居眠りをしてしまった。藤代泉さんの「波に幾月」はつまらない作品だった。

 

文芸 2018年 08 月号 [雑誌]

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 26歳の誕生日を迎えた日にインフルエンザと仮病を使って会社を1週間休み、千疋さんと呼ばれる先輩のもとを訪ねる主人公の物語。千疋さんや私の過去が物語の中心であり、物語内の現在では特に展開らしい展開はない。回想においても特にドラマはない。地味な作品は滋味深くないと読むのが苦痛になる。この作品は地味ななかに地味以外の要素が見つからず、ただ最後までなんの意味もないテキストの羅列としか感じられなかった。

ひとつひとつのエピソードは心に残っていないのだが、物語の展開の仕方としてひとつあたりの場面に割かれる分量が短すぎるという印象を受けた。漫然と読んだ私が悪いのだが、気付いたら場面が変わっておりときどき読み返しながら読み進めなければならなかった。

意図的に読みづらくするという純文学の悪癖がここにも見られた。読者に高いハードルを設けることで表現したいことはなんなのか。私は良い読者ではない。それは間違いない。ウェルメイドの作品を好む傾向にあることも自覚している。私の予想する芥川賞においては、このような作品が候補入りすることはない。

この芥川賞予想企画の趣旨をこのタイミングではじめて定める。芥川賞の候補選定の傾向に従い五代文芸誌を中心に文芸作品を読み漁り、あくまで個人的な感性に基づき候補作ならびに受賞作品を予想するものである。本家の候補や受賞を当てにいくわけではない。私の感性と本家芥川賞の感性がどれだけシンクロしているか、それを個人的に楽しむための企画である。

というわけでこの作品に関しては候補入りしないと予想する。著者は寡作のようだが、もう少し読み手を意識して書いてみてはどうだろうか、と最低なしめくくり。