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文学者になりきれず周縁部でおまつりさわぎをするの巻

第160回芥川賞③ 候補作予想「シェーデル日記」四元康祐(『群像』7月号)

四元さんはもう還暦間近のベテラン詩人だ。最近は小説にも挑戦しており、数年前に野間文芸新人賞の候補にも挙げられている。

今回取り上げた「シェーデル日記」は、群像に掲載された原稿用紙100枚の中編だ。どうやらシリーズものらしい。

群像 2018年 07 月号 [雑誌]

群像 2018年 07 月号 [雑誌]

 

 同じ号に佐藤洋二郎さんの短編も掲載されているが、もう70前の教授なので三島賞には挙げられても芥川賞的には卒業だろうということで今回は触れない。

「シェーデル日記」は前立腺がんの手術を受けた詩人が、術後の自分の体と向き合うなかで、性と死について正面から探求する物語である。誤字ではない。

前立腺を手術すると、男性機能は死んでしまうそうだ。しかしそれでも性生活のために復活を志す中高年の男性の悲哀がにじんでいる。

終盤で「ベイビューホテル事件」について思いを巡らせるシーンが続く。人それぞれが物に対して抱くクオリアは孤独であり、死を予感した兵士たちが性的暴力に耽った「ベイビューホテル事件」が主人公の現在とずれているようでどこか重なる。

死ぬつもりなら

何でもできる

のだろうか?

死と向き合って

 

鬼になる人

仏になる人

身じろぎもせず

風を聴く人

(P153-154)

難解な話ではないと思うのだがさらっと飛ばし読みしてしまったせいで特に書くことがない。書き方の特徴としては、上にも挙げたように詩人が主人公なので詩を用いて物語が進むところにある。この詩がなかなか素敵である。

ゆっくり

夜の底から

浮かび上がってく

亀の甲

 

つかの間

茫然と

<我>を見上げ

再び闇に沈んでゆく

(P135)

ただ分量といい経歴といいシリーズであることといい、なかなか候補入りはしにくい作品だろう。