象の鼻-麒麟の首筋.com

文学者になりきれず周縁部でおまつりさわぎをするの巻

第159回芥川賞⑬ 番外編Ⅰ 直木賞受賞作予想『ファーストラヴ』島本理生(文藝春秋刊)

受賞作予想編、開幕からいきなり番外編。島本さんの直木賞候補作『ファーストラヴ』を読んだ。

ファーストラヴ

ファーストラヴ

 

 いまリンクを張り付けて気付いたが、発売日5/31って今回の直木賞の候補に挙げられるぎりぎりの瀬戸際に発売されたんだなあ。(上半期の直木賞は前年12月~5月までに発表された作品が対象となる)

 父親を殺したアナウンサー志望の女子大生の内面に迫った今作。わずか300頁の作品ながら、物語の中心にいる女子大生の心の動きをいろんな角度から抉り出すだけでなく、狂言回しの役を担っている主人公を取り巻くドラマも並行して展開されてゆく。手練れの作者らしく書かれている。へたくそが書いたら分量は倍以上に膨れ上がるだろう。

何がうまいって人物のさりげない特徴を台詞で表現するのがうまい。

「だって女子で浮気癖があるとか考えられないじゃないですか」

「まあ、男でも女でも浮気は困りますよね」

(P65より)

賀川という、女子大生の元カレが吐いたひとこと。彼の女性観が伺える。このあと彼は元カノである女子大生をかばうため暴力沙汰を起こしたりもする。

 この作品は通底して、ジェンダーの問題に対して考えさせられるところがあった。

「そうです。お互いの性格も家庭環境もよく知ってます。環菜が男の子たちと付き合い始めるまでは、私が一番そばにいたんです」

その言い回しには同性特有の複雑な愛情が感じられた。思春期の女の子の親密さというのは、どちらかといえば疑似恋愛に近い。

(P69より)

地の文も含めたが、若い女性同士の友情について短く、しかし的確に描かれている。

 

けっこうしんどい話なのだが、結末はきちんと納得のいくものとなっており、読後感は良かった。なにより300頁できっちりまとまっているというのが美点だ。この作品は十分に直木賞を受ける可能性があると思う。他の作品も早く読まねば。