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文学者になりきれず周縁部でおまつりさわぎをするの巻

第160回芥川賞① 候補作予想「窓」古川真人(『新潮』7月号)

159回の候補作はまだ発表されていないが、160回は待ってくれないのだ。さっそく候補作を予想してゆこう。

今回は古川真人さんの「窓」を取りあげる。『新潮』7月号掲載作。

新潮 2018年 07 月号

新潮 2018年 07 月号

 

古川さんについては作品を読んだことはなく、九州の土着的な世界を描く作風ということをぼんやり知っているに過ぎない。

今作はこれまでの作品に比べて土地の匂いは消えているのではないだろうか。舞台は横浜。目の不自由な兄の生活の面倒を見る無色な弟が障碍と向き合うのがメインテーマ。ただしやっぱり九州出身の兄弟が方言で語り合う描写はある。方言に関してはすでに思うところを述べたことがあるのでそちらを参照してほしい。

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 と言いながら少し補足する。古川さんの前作『縫わんばならん』は三島由紀夫賞の候補にも挙げられており(落選)、ちょうど今回取り上げた『新潮』7月号に選評が載っている。その中で選者のひとり町田康さんが短いながらも方言に言及している。

小説に方言を導入する場合 、絶対にその言葉でなくてはならず、他の方言に置き替えたら成立不能、ほどの必然性が求められると考えるが、「やぜらしか」も含めてこの小説においては作者が書き進むための力以上のものがないように感じた。「物語の道筋(三島賞選評)」(『新潮』7月号P130)

 書き進むための力でしかない方言は読者を興ざめさせる。しかし今作では主人公の思弁が方言で滔々と繰り広げられる描写があり、前作に比してその重要性は高まっているのではないだろうか。方言自体も町田さんの『告白』ほどえげつないものではなく読みやすかった。

読みやすい。最近の純文学のトレンドかもしれない。私のような不勉強な読者には読みやすい作品と言うものはやはりありがたい。4つの章立て部分のうち、3までは読みやすかった。4では夢と現実が入り混じり主人公が自意識にさいなまれる様が描かれるが、私としてはこの物語は現実だけで決着をつけてほしかった。作者は逃げたのかな、と思ってしまった。

これまでの氏の作品を読んでこなかったので比較することができないのだが、まあ近年の純文学としては手堅くまとまっているなあという印象。障碍者を排除するという優生思想に基づいたディストピアの設定は面白かったし、作品内の小説のプロットを示すあたりも物語として作りこもうという意気込みを感じた。

原稿用紙200枚なのでこの作品は候補入りするだろう。受賞は。。。他の作品がまったく出揃わないのでなんとも言い難い。。。結果がわかるのは半年先だ。気の長い愉しみだと捉えてほしい。