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文学者になりきれず周縁部でおまつりさわぎをするの巻

雪子さんの足音【第158回芥川賞候補作】

群像9月号掲載

雪子さんの足音

 さっそく読んでみた。

 面白かった。そればっかりかと言われるかもしれないが一番大事な指標だと思う。そして良い作品だった。なぜ良い作品かを説明しよう。

 端的に言えば、作品世界がきれいに映像化できた、という点が大きい。言語遊びのような作品にはそれとしての面白さがあるが、それはよほどの手練れによらない限りただの「ゲージツ」として、「一般人」は自分の埒外に存在するものとして、触れないようにしようとするだろう。この作品は、小説ならでは、文章ならではの描き出し方がなされているという点で、すでに小説としてのうまみは十二分にある。

 映像化できたというのは、読者を作品世界にひきつけたということと同義である。私はこの作品世界で主人公の頭上を漂いながら物語を眺め続けた。そしてその世界を自分の人生に重ね、新たな物語を書いてみたいと思わせる力を感じた。誰かに何かを感じさせることのできる作品は、この世に生まれた意味がある。この作品は私に儚く美しい愛の物語を書かせようとしている。

 もしかしてもしかすると、この作品は芥川賞を受賞するかもしれない。そしてそれに足るだけの味わい深さがある、力がある。発表が楽しみだ。