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第160回芥川賞⑪ 候補作予想「いかれころ」三国美千子(『新潮』11月号)

今月号は各紙新人賞の結果発表でにぎわっている。北条氏の作品を取りあげた際にも書いたが、昨年度の芥川賞157回158回は通算3作の受賞作が出て、全て文芸誌主催の公募型新人賞の受賞作であったという豊作(あるいは不作)であったのだ。流れと言うのは案外無視できない力を持っており、実際北条氏の群像新人賞受賞作も一定の力量を評価する声はあった。それ以外の要素で芥川賞には圧倒的にふさわしくないと判断されてしまったようだが。

そんなわけで今月号の文芸誌各紙は芥川賞も視野に入れた、というかビンビンに意識したうえで新人賞を発表しているのではなかろうか。特に今回取り上げる『新潮』は狙っているに違いない。180枚。繰り返すまでもない。芥川賞ドンピシャである。

 

新潮 2018年 11 月号

新潮 2018年 11 月号

 

 

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第160回芥川賞⑩ 候補作予想「鳥居」石田千、「私のたしかな娘」坂上秋成(『文學界』10月号)

やっぱり文學界、いい作品が多いなあ。五大文芸誌の中では私は『文藝』と『文學界』がお気に入りである。新人賞では文藝賞がいちばんかな。すばるも面白いのがたまにあるけど、全般的な傾向としては文藝賞のほうが好き。文學界は新人賞になるとどうしてあんなに硬いものばっかりになっちゃうのかな。

文學界2018年10月号

文學界2018年10月号

 

今月号の『文學界』は豊作である。候補歴三回の石田さんが140枚の短編を発表、さらに未だ候補歴はないものの、期待の新人である坂上さんが150枚の作品を寄せている。どちらも最後まで一気に読ませる力を持っていた。今月号の『文學界』は「買い!」である。

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第160回芥川賞⑨ 候補作予想「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」鴻池留衣(『新潮』9月号)

ひと月ほど前に一度手に取っていたのだが、あまりに読み進めることが苦痛で放り投げてしまったこの作品。下記の冒頭部分はそのときに書いたもので、この夏私はスーパー銭湯にはまっていた。わざわざ新幹線に乗る距離のスーパー銭湯にも行ったりした(もちろん用事のついでだが)。

一度は手に取ったのに放置するのも気持ち悪いので全速力で流し読みしてまとめる。そのため内容には触れない触れられない。

新潮 2018年 09 月号

新潮 2018年 09 月号

 
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第160回芥川賞⑧ 番外編Ⅱ 直木賞候補作予想『夏空白花』須賀しのぶ(ポプラ社)

新聞記事を使ったチラシ、専用ツイッターなど出版社の力の入れようが伺えるこの作品。戦後、学生野球の復活に奔走する新聞社員の姿というのは直感で「読みたい!」と思ったものだった。直感は外れた。

夏空白花

夏空白花

 
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第160回芥川賞⑦ 候補作予想「春、死なん」紗倉まな(『群像』10月号)

群像 2018年 10 月号 [雑誌]

群像 2018年 10 月号 [雑誌]

 

 七十歳の身体から、傍目には既に抜け落ちたと思われている性欲。それが枯渇どころか、実際には持て余すようにしている――。高齢者の性をえがく鮮烈な文芸誌デビュー作。紗倉まなの創作「春、死なん」(120枚)(群像10月号紹介ページより

 HPの紹介文を見て、はーん、そういう作品だったのかー、と驚いた。私は老人の青春小説として愉しく読んだ。モチーフとして性の扱いは取り上げられていたが、それはこの作品を構成する要素の一つに過ぎないというのが私の感想だ。

文芸誌界隈では似たような作品が集まる傾向にある。日常系、暴力肉体系、思弁垂れ流し系、などなど。この作品は日常系不穏亜系といったところか。めちゃくちゃ雑にくくるなら今村夏子さんの作品に似たぞわぞわ感があった。読み進めることが怖いような感じ。

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第160回芥川賞⑥ 候補作予想「波に幾月」藤代泉(『文藝』秋号)

古市さんの作品がアタリだったのに対し、今度はバランスを取るように非常に退屈な作品に出会った。あまりにも退屈過ぎてわずか原稿用紙92枚の短編なのに何度も居眠りをしてしまった。藤代泉さんの「波に幾月」はつまらない作品だった。

 

文芸 2018年 08 月号 [雑誌]

文芸 2018年 08 月号 [雑誌]

 

 

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第160回芥川賞⑤ 候補作予想「平成くん、さようなら」古市憲寿(『文學界』9月号)

久しぶりの更新になってしまった。

わざわざ申し開きをする必要もないだろうが、私はこの候補作予想をするにあたって、文芸誌を購入することはほとんどない。前回の第159回のときは松井周さんの「リーダー」があまりにも素晴らしかったので『文藝』夏号を購入したのみである。基本的には近くの大学図書館で読んでその場でこのブログの記事もまとめている。

ここ二か月ほどは遠方をうろうろしていたのでなかなか図書館に行くことができなかった。芥川賞に関係のない本はいろいろ読んでいるので読書勘は鈍っていないが、久しぶりに文芸誌に触れて胸の高まりを感じた。一般には変態と呼ばれる人種。

 

そんなお久しぶりの更新でかなりのアタリを引いた。古市憲寿さんの「平成くん、さようなら」をつい今しがた読み了えた。

 

文學界2018年9月号

文學界2018年9月号

 

 

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